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戦わないマーケティング

【「マーケティングは戦争だ」の時代が終わった】

もともとマーケティングの用語には戦争をイメージさせる言葉が多いのは皆さんご存知の通りです。「戦略」「戦術」「兵站」「ターゲット」「占領」「攻略」「競合」等々、数え上げればきりがありません。私たちも普通に使ってきましたが、最近さすがに違和感が出てきたのも事実。

市場という戦場の、領土を占拠するためのシェア争いは、確実に市場がそこにあるから成立するわけですが、その市場自体の存在もゆらぐ場合があります。携帯電話の例を見ても、フィーチャーフォン(いわゆるガラケー)の販売台数は、日本でiPhoneが発売された2008年から僅か3年で半減しそうな勢いでシュリンクしています。また、以前洗剤の要らない洗濯機が発売されました。実際には効果が疑問視されたり、消費者の支持が得られず、消えて行きましたが、もしあれが本当に消費者に受け入れられていたら、一夜にして洗濯洗剤マーケットが消えてしまうことだってあるかもしれません。

「競争優位の戦略」の時代には、企業の成長はシェアを上げることで達成できると言われてきました。シェアを争っているとき、マーケティングの大目標は敵(競合ブランド)を如何にしのぐかです。そのために、情報を収集し、圧倒していくための手立てをいろいろ講じます。同じ業種で戦っている間は良いですが、競合関係が複雑化している現代では、それも難しくなってきています。例えば資生堂は、化粧品メーカー、エステの会社、加えて(美容家電を開発している)家電メーカーとも戦わなければならなくなりました。戦線が拡大しすぎて全てを相手にするには無理があります。こうなってくると、そもそも敵なんていたのだろうか?と考えてしまいます。

 

【恋愛型マーケティングの始まり】

ソーシャルメディアの台頭に伴い、企業と消費者のエンゲージメントについて議論される機会が増えました。競合ブランドを攻撃するより、消費者とのよりよい関係を築いていくことの方が重要であるという考え方に変わってきたのだと思います。つまり、企業にとって最も重要なことは顧客とのリレーションシップであるということです。前述の「戦争型マーケティング」に対しこちらは「恋愛型マーケティング」と呼ばれています。

実は、このあたりのお話しは慶応大学名誉教授の嶋口充輝先生の「ビューティフルカンパニー」という本の中に詳しく書いてあります。「戦争型のマーケティング」では競合他社に対する相対的な競争が企業の関心事だったわけですが、「恋愛型のマーケティング」では、顧客との間の絶対的なリレーションにその比重が移ってきたというお話しです。つまり、市場シェアの拡大を目指すのではなく、消費者のマインドシェアの拡大を目指そうというわけです。

「戦争型マーケティング」から「恋愛型マーケティング」へと、競争の原理がシフトする中で、キチンと向き合わなければならない対象は、「競合ブランド」から「消費者」へと変わりました。目標も「相手を攻撃する」から「相手に好きになってもらう」に変わったのです。

 

【好きになってもらうために…】

相手に好きになってもらうために何をしなければならないか?まずは、相手のことをよく知ることから始めなければなりませんね。だから「恋愛型マーケティング」のスタートも「消費者をよく知る」ことから始める、ということになります。ところがこれが難しい。なかなか本音が見えてこないのです。だから消費者インサイトが重要になります。

トランスコスモスのエグゼクティブリサーチャーの萩原雅之さんに教えていただいたのですが、日本マーケティングリサーチ協会のカンファレンスで、P&Gの桐山社長が消費者インサイトを以下のように定義したそうです

1)データでは見えてこない真実
2)心の奥深くに存在する自覚のない感情やニーズ
3)ビジネスを成長させる可能性を秘めるもの

これはもう、調査の集計結果を見るだけでは対応できそうもありません。消費者の行動からその裏側に隠された本音をいかに見通すのかが鍵となってきます。ちなみに、P&Gは、消費者調査に関する投資を年間約4億ドル行い、調査対象人数は年間約500万人にのぼると公表しています。仮説→検証を繰り返しているのだと思います。

という訳で、「恋愛型マーケティング」と消費者理解について述べさせていただいてまいりましたが、最後に私の大好きなスティーブ・ジョブズの言葉を引用します。イノベーションの達人は、恋愛型マーケティングも見通していました。

「美しい女性を口説こうと思った時、ライバルの男がバラの花を10本贈ったら、君は15本贈るかい?? そう思った時点で君の負けだ。ライバルが何をしようと関係ない。その女性が本当に何を望んでいるのかを、見極めることが重要なんだ。」

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