SOCIALING EYE

販促・集客におけるネットリサーチの活用意義と最新潮流

【「思っていること」と「行動」は違う?】

ヤバい経営学(フランク・バーミューレン著)という本の中にこんなエピソードが紹介されています。アメリカのアーカンソー大学のジェシカ・ノーランという研究者が、カリフォルニア州の家庭の省エネを呼びかける4種類のチラシを作りました。

①節約しよう!環境のために。
②節約しよう!社会のために。
③節約しよう!あなたの出費も減らせるのだから。
④節約しよう!みんなもやっているのだから。

どれが一番効果的かを考えるために住人たちにインタビューしたところ、「他人がやってるからと言って自分もやるとは限らない。」「④はあまり意味がないんじゃないの?」という意見が多く、その他の回答にはあまり差がありませんでした。

メッセージの効果を確認するために、ノーランは家庭ごとに違う4種のメッセージのチラシをこっそり住人たちの家に配り、後に各家庭の電気メーターを調べたのだそうです。その中で電気使用量が明らかに減少したのは、インタビューでは評価の低かった4番目の「みんなもやっているのだから」のメッセージを配った家庭だったのです。

彼女はこの事実から「『他の人たちがやっている』という単純な事実は、私たちの意思決定や行動に大きく影響している」という消費者インサイトを得ました。

このエピソードは以下のことを示唆しています。

●人は「思っていること」と同じ「行動」をとるとは限らない。
●「行動」という事実を調べることでインサイトを得た。

 

【プロモーションとリサーチ】

プロモーションというマーケティング活動の中でリサーチを活用するシーンを考えてみましょう。プロモーションは消費者の「購買行動」を促進する業務です。これを「PDCA(plan-do-check-act)サイクル」で捉えてみると

plan(計画):消費者の心に刺さり、行動してもらえる施策を計画する。
do(実施・実行):計画に沿ってプロモーション業務を行う。
check(点検・評価):実施が計画に沿っているかを確認する。
act(処置・改善):計画に沿っていない部分を改善する。

となります。

この中でリサーチが威力を発揮する局面は「plan」と「check」です。「plan」の局面では消費者が本当に求めているのは何かを調べる必要があり、「check」の局面ではプロモーションが消費者に対し、計画通り効力を発揮しているかを調べる必要があります。

従来、マーケティングリサーチはコストと期間がかかるため、プロモーションに活用されるシーンがあまり見られませんでした。しかし、セルフ型のリサーチサービスや、私どもがご提供している「ぺるそね」のようなシングルソース消費者パネルなどの登場によって手軽に利用できる環境が整ってきました。

プロモーションという「PDCAサイクル」のプロセスでリサーチデータの収集が進み、それが蓄積されてくれば、マーケティング・ナレッジとして活用されるようになります。これまで不透明なケースが多かったプロモーションの投資対効果が明確になっていくことでしょう。

 

【消費者を対象としたリサーチ情報は「ペルソナ」にまとめると使いやすい】

冒頭でご紹介したエピソードでもわかるように、人間の「思っていること」と「行動」は必ずしも同じではありません。なぜならば、ほとんどの「行動」は考えなしに行われているからです。心理学では、一般的に「顕在意識」の部分は数%程度とされ、「潜在意識」が9割以上とされています。つまり、人間の行動の大半は意識して行われていません。アンケートで「どう思いますか?」と意見を聞いても、聞くシチュエーションによって回答は変わり、その「意見」が必ずしも行動に結びつかない場合も多いのです。

有効な消費者インサイトは「行動」という「事実情報」によって得られます。定量調査によってリサーチするときは極力「どう思うか?」などの意見ではなく「何をしたか?」などの行動や事実に焦点を当てた方がよいでしょう。消費者が「いつ、どこで、どのように、なぜ、何をした」のかという行動を明らかにするための設問を用意しましょう。

リサーチで得られた消費者情報は「ペルソナ」にまとめると、プロモーションのプランニングに使いやすいと思います。(図)「ペルソナ」とは「顧客モデル」のことで、詳細に設定したプロフィールを関係者で共有し、人物像の理解を深めることでプロモーションの方向性を統一する手法です。「ペルソナ」には裏付けるデータが必要です。通常はインタビューなどの定性調査で内容を深めますが、定量調査で「ペルソナ」のスケルトン(骨組み)を構築することで「木を見て森を見ず」を防ぐことができます。「ペルソナ」のプロモーションでの活用例は、誌面の関係で省略しますが、大和ハウス工業様の「エディズハウス」、ヤマサ醤油様の「鮮度の一滴」などの事例が公開されていますので参照してみるといいでしょう。

また、私たちのホームページの「事例紹介」の中でも、ペルソナ分析からの商品企画、ブランド開発、プロモーションなどの例をいくつか紹介しています。ぜひ、ご参照下さい。

 

【プロモーションとリサーチの新しい関係】

ITの進化により、リサーチの現場も急速に様変わりしてきました。インターネット調査のコモディティ化に始まり、「セルフ型リサーチサービス」や「シングルソース消費者パネル」の登場。爆発的に普及した「ソーシャルメディアを活用したリサーチ」。「MROC(マーケティング・リサーチ・オンライン・コミュニティ)」等々。

さらに、スマートフォンの普及やオンラインショッピングの伸びによって、消費者の情報行動、消費行動がデジタル・プラットフォームに急速に移行しています。このことは、リサーチをするまでもなく膨大な消費者データが収集されていることを意味し、そのビッグデータをマーケティングに活かす動きも始まっています。

「プロモーション」と「リサーチ」の関係を考えてみましょう。「リサーチ」によって消費者を理解し、「プロモーション」によって自社や製品を理解してもらう。どちらも消費者と企業の対話から始まることを考えると、表と裏の関係です。将来的にはデジタル・プラットフォーム上で、消費者との対話を通してリサーチとプロモーションが同時に行われるようになるでしょう。

例えばアンケートによって女性のお肌の悩みを聞くプロセスで、乾燥肌に悩む女性にサンプル商品を送り、使用後に使用感を聞いた後で、割引購入のおすすめをする、といったような展開も登場してきています。

話がそれましたが、様々なデータが手軽に入手できる環境になってきたことだけは確かです。プロモーションを一過性の活動で終わらせないためにもワークフローの中にリサーチを組み込み、マーケティングナレッジとして蓄積されることをおすすめします。そこで重要なのはデータを読む力です。プロモーション担当者にとっても調査分析や統計の基礎知識は必須のビジネススキルになるのかも知れません。

 

販促会議2013年7月号に寄稿した記事より構成

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